アフェクティブイノベーション協会

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ai Cafeとは、協会理事による、それぞれ個別にテーマを設けた勉強会です。
AIA理事による、それぞれ個別にテーマを設けた勉強会です。 テーマに対する発表と参加者による活発な意見交換が特徴です。




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SKEL セミナー参加レポート
報告者:秋⽥直繁(九州⼤学 ⼤学院芸術⼯学研究院)
日時 :2018年 5⽉ 24⽇(⽊)
    19:00(開場18:30)〜 21:00
場所 :⼯学院⼤学 新宿キャンパス
講師 :椎塚久雄(SKEL)
テーマ:思考の幅が広がるラテラルシンキング
              〜斬新なアイデアを⽣むためのインテグレーティブ・シンキングに向けて〜

1.はじめに

椎塚先⽣と15 ⼈の参加者により,ロジカルシンキングとラテラルシンキング,そしてインテグレーティブ・シンキングに関する議論が展開されました.

2.創造を⽀える「⾶躍」の重要性

⼊⼿できる情報がコモディティ化している現代において,論理思考だけから斬新なアイデアを⽣むのは困難である.クリエイティビティに溢れる⾏動の背後には,「⾶躍を求める意思」がある.例えば,ある種のインコは毒を含んだ果実を好んで⾷べ,その毒を中和する成分を含んだ⼟を⾷べるという.これは「毒があるから⾷べない」という直線的なロジックではなく,毒があってもなんとかしたいという「⾶躍を求める意思」により⽣じた⾏動であるといえる.
⼈⼯知能ができることは,基本的には論理思考である.また,パースが定義した3 種の推論の中で演繹や帰納は⼈⼯知能でも⾏うことが可能であるが,⾶躍を伴うアブダクションは⼈間独⾃のものである.

3.インテグレーティブ・シンキングが未来を拓

エドワード・デボノは従来の論理思考や分析的思考を垂直思考として定義し,それは論理を深めるには有効である⼀⽅で,斬新な発想は⽣まれにくいとしている.これに対して⽔平思考とは多様な視点から物事を⾒ることで直感的な発想を⽣み出す⽅法であるという.(⽔平思考はアブダクションを含んでいる.)
椎塚先⽣は,垂直思考と⽔平思考は必要であるが,複雑なこの世界を複雑なままに捉え,思考していくためには,この2つの概念のみで,その思考空間を表現することは不⼗分であると仰っていると感じた.因果関係がある複数の要素の関係をありのまま捉え,相反する複数の考え⽅を同時に保持し,⼆者択⼀を避け,両者のよさを取り⼊れながら,それを上回るアイデアを創造するようなインテグレーティブ・シンキング(統合思考)にこそ着地点がある.

4.ラテラル・シンキング(⽔平思考)を⽀える3 つの発想法

アブダクションとシネクティクス(類推法),TRIZ(トゥリーズ)が紹介された.

4.1 クリエイティブな仕事のために推論(演繹,帰納,アブダクション)の組み合わせが重

演繹は前提に暗々裏に含まれている情報を取り出し,結論においてそれを明確に述べるという思考であり,この演繹法では説明仮説をつくることができない.演繹では,そこから曖昧な解は出てくることはないが,何ら新しいものは得ることができないのである.
また,帰納は事実を追求し複数の事実から知識の⼀般化を⾏う推論である.多くの研究者や企業は,この演繹と帰納を⽤いることが多い状況がある.
説明仮説の⽣成に介⼊できる推論はアブダクションである.アブダクションはある驚くべき事実から始まりそれを説明するための理論を求める.クリエイティブな研究や仕事をするためには,演繹と帰納とアブダクションの思考を⾏き来することが重要なのであると椎塚先⽣は述べられた.
参加者からは,アブダクションから出てきたことも演繹的に説明できないと企業では認められないことが多く,推論を組み合わせることが重要であるとコメントがあった.

4.2 シネクティクス法

4.2.1 シネクティクス法(類推法)の仕組み

類推法の仕組みは,異質馴化と馴質異化の2 つから成っている.異質馴化とは,⾃分にとって全く未知のモノをヒントに⾃分の問題解決を着想するという考え⽅で,馴質異化とは⾃分にとって既知のモノを,着眼点を変えることにより,新しいヒントを得られるという考え⽅である.
ブランドの陳腐化を防ぐために,広告業界では,異質馴化や馴質異化の⼿法を⽤いてTVCF の企画が作られている.例えば,マクドナルドやカップヌードルは,記憶している範囲では味も内容も⼤きな変化がないが,着眼点を変化させたCM が打たれており馴質異化の典型であるといえる.

4.2.2 シネクティクス法の3つの種類

シネクティクス法には直接類推法,主観類推法,象徴類推法の3 つがある.
1)直接類推法とは,対象と直接似たものを探し,そこから応⽤できるヒントを探る⼿法であり,特に⾃然界や⽣物からのアナロジーに有効である.具体例として,ボーイング社は⿃の翼の形状から⾶⾏機のフラップを開発したといわれている.また,ミズノのサメ肌⽔着は,蓮の葉の撥⽔効果やサメ肌の流体抵抗の低減効果などを実⽤化したものである.このように⽣体の特徴を模倣する技術をバイオミメティックスという.
2)主観類推法とは,対象になりきることにより,その仕組みや働きのヒントを探る⼿法である.⾼齢者になり切るツールを⽤いた調査やグーグル的思考が例として挙げられた.グーグル的思考とは,「グーグルだったらどう考えるか」と考えることである.
3)象徴類推法とは,⾔語の⼒を利⽤して発想を広げる⽅法である.類似の事象を⾒つけ出シネクティクスの基礎は知識量である.「知識の組み合わせ」により発想していくので,その組み合わせのべき集合を計算してみると,いかに知識量が重要であるかがわかる.そして,重要なことは,「⾃分の専⾨分野から遠いテーマに関する知識をどれだけ持っているか」ということである.

4.3 TRIZ(トゥリーズ)について

TRIZ は,ロシア発祥の問題解決理論である.40 種類の発明原理と70 種類の標準解が既に明らかになっている.これらの発明原理を⽤いて,発想してみてもよいのではないだろうか.

5.ラテラル・シンキングを刺激する3 つのツール

マンダラートと635 法(ブレインライティング法),SCAMPR 法が紹介された.
1)マンダラート
2)635 法:強制発想法とも呼ばれている.テーマが描かれた⽤紙をメンバー間で回して,そこにアイデアを書いていく.この⽅法を⽤いると各⼈のアイデアが⾒えるので, 他⼈のアイデアがヒントになり発想の幅が広がる.
3)SCAMPR 法

6.ラテラル・シンキングの考察

「恐怖」がある状態では,脳の活動が抑えられてしまい,ひらめきは起こらないといわれている.

7.⽐喩の重要性

2 つのモノを結びつける能⼒

8.世代による能⼒とその活⽤

「恐怖」がある状態では,脳の活動が抑えられてしまい,ひらめきは起こらないといわれている.

8.1 加齢に伴う能⼒の変化

ある⽂献によれば,⾔語能⼒は年をとってもあまり変わらない.⼀⽅,帰納推論能⼒は加齢に伴い低下するといわれている.つまり,ラテラル・シンキングの能⼒は30 代で成績のピークを過ぎ,あとは下がっていくので組織に若者は必要であるという.
この内容に対し参加者から,若い⼈は物事を知らないので,知識の組み合わせによる発想⼒が低いのではないか,というご意⾒があった.
また,参加者から流動性能⼒と結晶性能⼒の観点から以下のコメントがあった.「流動性能⼒とは,暗記⼒,計算⼒など新しい場⾯への適応に必要な能⼒をいい,結晶性能⼒とは,過去の経験が⼟台となる専⾨的な能⼒のことである.⼀般的に流動性能⼒は加齢により衰え,結晶性能⼒は加齢による低下はあまり⾒られない.つまり,物書きや監督業,オーケストラの指揮者などは加齢に伴い専⾨的な能⼒は上がっていくといえる.」
加齢に伴い,認知的な処理や多重負荷の処理が落ちてくるためミスは増えることがあるというご意⾒もあった.

8.2 組織に若者は必要か?

ある企業では,若⼿とベテランがペアとなり仕事を⾏うことが多いという.若⼿はベテランから知識や経験を基に教育を受けることができ,思考の偏りが⼤きいベテランは若⼿と接することで新たな視点を学ぶことができる.専⾨的な知識は属⼈化することがよくあるので,どの企業でも知の継承と蓄積の⽅法が課題となっている.知識をマニュアル化したりテキスト等で残した場合,仕事のプロセスや既存の知識を伝えることはできても,思考や創造の⽅法は上⼿く継承できないのだろう.
技術的転換が⽣じ,仕事に求められるスキルが時代と共に変化してきた.特にIT 化やコンピュータ技術の発展により様々なアプリケーションを操作するスキルも必要となっている.このような新しい技術に適応する能⼒をもつ若⼿は多い.


9.⾔葉を「記号」として扱う態度の重要性

他者とのコミュニケーションのためには,記号としての⾔葉が重要な役割を果たすと椎塚先⽣は仰る.(ここでいう記号とは,チャールズ・S・パースの定義では「誰かに対して何かを表すもの」のことである.)
我々は,物事についてなんとなく知っているという感じがある.これは脳科学ではFOKと呼ばれている.このモヤモヤした状態をスッキリさせるために⼈はよく「名付ける」という⾏為を⾏う.名付けることで,その概念は明確なものとなり,思考を発展させるきっかけとなる.
論理思考は⾔葉を「記号」として扱う態度である.⼀⽅,⾔葉にはあ,感情を表現するためにより広くて曖昧な意味を持つ「象徴」としての機能もある.我々はこの両⽅を意識しながらインテグレーティブ・シンキングを⾏う必要性があると椎塚先⽣は主張されている.
感情は理性を含めたすべての認知プロセスに関わっている.理性は感情に⽀えられている.我々が意思決定を⾏う際にも感情は重要な役割を果たしているということに⽬を向けるべきであるという.

10.コンピュータはインテグレーティブ・シンキングを⾏うことが可能か

論理的なものと感情的なもの,ロジカル・シンキングとラテラル・シンキングは1⼈の⼈間の中に統合されているものであり,単にこれらを⾜し合わせるだけでなく,⾜りない何かを補いながら,この2つの思考を統合するのがインテグレーティブ・シンキングであるといえる.それこそがコンピュータではたどりつけない⼈間の思考である.

11.サバイバル・シンキングとインテグレーティブ・シンキングの関係

サバイバル・シンキングという概念が紹介された.⼈間にとってビジネスとは,他の動物にとっての⽣存競争に相当する.ビジネスにおいて考えることは,⽣きるための⼿段であり,これを「サバイバル・シンキング」と呼ぶ.サバイバルシンキングでは,「⽬的達成のために,取り得るアクションをすべて洗い出し,顧客の⽴場から⾒たメリットとデメリットを多⾓的に評価する」というプロセスで思考する.これは,従来からコンサルが⾏ってきた⽅法である.
椎塚先⽣は,このサバイバル・シンキングを発展的解消する必要があるという.インテグレーティブ・シンキングとは,このサバイバル・シンキングの最終段階で,多⾓的に評価した結果,1 つのアクションを選ぶのではなく,洗い出された複数のアクションを腹の底に定着させて,それらの相反するアクションの良さを失わないままに融合するような新しい解を⽣みだそうとする知的ステップであると説明された.

12.統合の重要性

「五感」とは,実は⼈間が勝⼿に分けて考えているもので,本来これらは相互作⽤しながら⼀⼈の⼈間としてインテグレート(統合)されているのである.コンピュータが⾏うことができない「統合」こそ,⼈間らしい巨⼤な鉱脈であり,我々はそれを⼤切にしていこうというのが,今回のご講義の主メッセージである.

13. 報告者より

報告者の専⾨はプロダクトデザインとデザインエンジニアリングです.1 ⼈の⼈格の中に,デザイナーとしての⾃分とエンジニアとしての⾃分を併せ持ち,2 ⼈の⾃分を議論させることによって,両者の視点から物事の在り⽅や在るべき姿を探究するための⽅法論を構築するために,デザインの実践と研究と教育を繰り返しています.まさに,インティグレーティブ・シンキングが必要な分野で活動しています.
今回の椎塚先⽣のご講義は,複数の思考を統合的に⾏うための重要な⽰唆に富み,とても充実した議論の場となりました.
理性や感情など,⼀⾒,相容れないような概念を揺るがし,⼆項対⽴を解体し,相互作⽤を促す.また,そもそもそこには対⽴など存在してなかった(同じものを違う⾓度から⾒ていただけだ)ということを⽰すような新たな発想が⼤切なのだと理解しました.
今後,統合や融合がどのようにして⾏われているのか,さらなる議論が期待されます.